ラザリナの馬
ギリシャのテッサリア地方のラザリナという村に実在する放馬場をテーマにした、ミハリスという青年と、避暑に預けられたアラブ諸国の王様の馬を介してのロマン溢れる作品である。その他に、ギリシャを舞台にした、『裸足のメリーゴーランド』と『ロドリゴ』の二作品を収録した短編集である。
プシュケ幻想の旅
本書は”心の旅”の記録である。『エロスとプシュケ』のギリシャ神話になぞらえ、見失った愛の真実を求めて降り立った地はメルボルンだった。「旅」の過程を通してあるカタルシスを得ようとするのは、女性特有の行動体系の一つといえよう。ただしこの段階において、著者はすでに自身の人生に降りかかってきた出来事については決着をつけているように見える。それゆえに、本書からは余分な感傷が払拭され、達観した大人の視点だけが残った。ギリシャでの滞在経験ゆえか、随所で広角な視野が拓けている。教育や若い世代についてなど、「日本」を「外」から見た怜悧な観察は鋭く興味深い。社会的に大きな事件は注視するが、日々の何気ない出来事は視界を素通りすることもままあり、そうした日常的な歪みへ感応力の鈍化を意識せずにはいられない示唆が、本書には散りばめられている。「愛の心理」を成熟した女性の視点で探り、ギリシャ神話の調べに乗せて奏でた上質のエッセイ。
Kaoru Kikuoki 菊沖 薰
1950年、静岡県浜松市に生まれる。15歳の時、独学により習得したギターで『小さな貝がら』を作詞・作曲し、筒美京平の編曲にてレコード化される。その後、クラシック・ギターを本格的に学ぶ為、15歳から3年間、浜松―東京・赤坂間を毎週通う。1968年、明治学院大学フランス文学科入学。1972年、同大学同科卒業。在学中20歳の時、詩集私家版「Dar el Beida」を出版し、現在同詩集は浜松市立中央図書館閉架図書にて保管されている。その後、TBSでドラマのタイムキーパーの職を経験。馬が好きで、東京、アバロン乗馬学校にて乗馬を習う。小学生時代に読んだギリシャ神話に魅せられ、以後もギリシャとギリシャ語に強い関心を抱き、単身ギリシャに渡る。1991年、ギリシャ、アリストテレス大学現代ギリシャ語科卒業。ギリシャに1980年代と1990年代を16年間暮らし、ギリシャ人医師の夫との間に2人の娘が誕生。その間に執筆した童話『さくらんぼの耳飾り』で毎日新聞社主催、第9回「小さな童話」大賞で佳作を受賞。その後、童話『こうもりとおばあさん』で第13回同大賞で奨励賞を受賞。日本に帰国後、執筆の傍ら、小学館イングリッシュスクールで子供達に英語を教え、浜松市国際交流協会で日本語講師を勤める。2000年、オーストラリアのメルボルンとギリシャ神話を織り交ぜたエッセイ『プシュケ幻想の旅』を文芸社と共同出版する。2022年、Amazonにて電子書籍版を出版。ギリシャを舞台にした純文学作品『ラザリナの馬』と『裸足のメリーゴーランド』をAmazon にて電子書籍として出版。現在も執筆活動を続けている。
<English>
Kaoru Kikuoki was born in 1950, in Hamamatsu, Shizuoka prefecture, Japan. She is the daughter of Tokuhei Kikuoki, a reseacher specialized in Chinese philosophy and literacy, and Sakuyo Kinoshita, sister of the movie director Keisuke Kinoshita.
At the age of 15, as a self-taught guitarist, she wrote and composed chiisana kaigara(小さな貝がら、a little shell) which was arranged by Kyouhei Tsutsumi and released as a vinyl record. For the next three years, Kaoru commuted from Hamamatsu to Akasaka, Tokyo to learn classical guitar in earnest. In 1968, she entered the Department of French Literacy at Meiji Gakuin University and graduated in 1972.
At the age of 20, while still a student at the university, she published Dar el Beida a private edition of her poetry.
Kaoru worked as a timekeeper on the set of various TV series on TBS channel in Japan. She learned horseback riding at Avalon Horse Riding School in Tokyo.
Kaoru moved to Greece all alone and graduated the Modern Greek language class of Aristotle University of Thessaloniki. She lived in Greece for 16 years from the 80’s through the 90’s and blessed with two daughters between her Greek husband and a doctor. There, Kaoru wrote sakurambo no mimikazari,(さくらんぼの耳飾り, the cherry earings) and received Honorable Mention at the 9th chiisana douwa taishou(小さな童話大賞, the small children’s story awards), sponsored by the Mainichi Newspapers Co.. Also for a children’s story, koumori to abaasan(こうもりとおばあさん, the bats and the old lady) she recieved the Encouragement Prize of the 13th aforementioned awards.
Kaoru taught English at Shogakukan English School in Hamamatsu and worked as Japanese language teacher at Hamamatsu Foundation for International Communication and Exchange-HICE.
In 2000, she co-published pushuke gensou no tabi(プシュケ幻想の旅, Psyche A Journey of Illusion) with Bungeisha publishing company.